連結ピンでありたい

「連結ピン」という、言葉があります。

組織論で、使われる言葉です。トップと、現場。上の層と、下の層。その間を、繋ぐ、留め具のような存在のこと。――鎖の輪と輪を、繋ぐ、ピンを、思い浮かべてもらうと、いいかもしれません。

なぜ、こんな話を、するのか。

――素晴らしい経営者に、出会うことが、あります。頭が切れて、先を読み、決断も、速い。この人が、率いているのだから、さぞ、強い組織なのだろう、と、思う。

ところが。

その、素晴らしい方針が、現場の、末端まで、届いていない。――そんな場面に、出くわすことが、あるのです。トップの、熱い想いが、途中で、薄まって、いちばん先まで、届く頃には、すっかり、冷めている。

なぜ、こんなことが、起きるのか。

はじめは、私も、単純に、思っていました。現場の意識が、低いのだ、と。――でも、それは、違いました。

トップと、現場では、見えている景色が、まるで、違うのです。

トップには、会社の、全体が、見えている。三年後も、五年後も、見据えている。――けれど、現場には、現場の、今日が、ある。目の前の、お客様。締め切り。手元の、作業。――どちらが、上でも、下でも、ありません。ただ、立っている場所が違えば、見えるものも、響く言葉も、変わる。それだけのことなのです。

だから、トップの言葉を、そのまま、大声で、現場に、投げても、届かない。

そこで、要るのが、「連結ピン」です。

トップの想いを、受け取って、現場に、伝わる言葉に、翻訳する。難しい戦略を、明日の、具体的な動きに、置き換える。相手に、合わせて、温度を、変える。――ときには、すべてを、そのまま伝えず、いま、届く分だけを、届ける。そんな、工夫を、する。

派手な役回りでは、ありません。トップのように、光は、当たらない。――でも、この、留め具が、緩んでいると、どんなに、優れた組織も、バラバラに、なってしまう。

だから、私は、思うのです。

優れたトップを、集めることは、大事。けれど、それと、同じくらい――いや、それ以上に、優れた「連結ピン」を、どれだけ、持てるかが、組織の、強さを、決めるのではないか、と。

連結ピンには、翻訳する力が、要ります。上の言葉も、下の景色も、両方、分かる。そして、その間を、行き来しながら、両者を、繋ぎ続ける。――地味で、根気の、要る仕事です。

でも、私は、その役を、担いたい。

トップの、見ている遠くと、現場の、立っている足元。その、両方を、繋ぐ、一本のピンで、ありたい。――光の当たる場所には、いなくても。組織が、バラバラに、ならないように、静かに、留め続ける。

そういう存在に、なれたらと、思うのです。