【コラム】アンティークウォッチの魅力

今回は、趣味のアンティークウォッチについて、その魅力を紹介したいと思います。
アンティークウォッチとは?
アンティークウォッチ、ヴィンテージウォッチのどちらが正しい呼称なのか?についてはよく議論されるところです。
一般的な用語の定義はこちらです。
用語
アンティーク(Antique)とは、一般的に製造から100年以上経過したものをいいます。
用語
ヴィンテージ(Vintage)とは、製造から20年以上経過し、その時代の特定の価値や魅力を持つものをいいます。
ところが、腕時計の歴史はまだ浅いことから、20年以上前に製造された時計をアンティークウォッチ、ヴィンテージウォッチと呼称しているのが一般的です。
ちなみに、腕時計が初めて世に出たのは1868年で、パテックフィリップが製造した女性用の腕時計が初出と言われているようです。
その後、第一次世界大戦で利用されたことにより普及し、1920年代以降商業的に普及していったようです。
アンティークウォッチの魅力とは?
それでは、アンティークウォッチにはどのような魅力があるかについて紹介したいと思います。
魅力① 現行品に比べて低価格
意外に思われる方も多いと思いますが、一部のレア商品を除き、一般的にアンティークウォッチは現行品の機械式時計より安価に購入することができます。中古品ですので、当然と言えば当然なのですが。
現行品の機械式時計は、ざっくり分けると、入門クラスで10万円以上、ミドルクラスで50万円以上、ハイクラスで100万円以上、雲上クラスで300万円以上といった分類になるかと思います。
(例)挙げきれないので一例です(独断と偏見になりますので悪しからず。下線を各クラスの軸にすれば間違いないと思います。)
メーカー | |
入門クラス | セイコー、シチズン、オリエント、ハミルトン、ティソ |
ミドルクラス |
チューダー、オメガ、ゼニス、IWC、タグホイヤー、ブライトリング、パネライ、グランドセイコー、ザシチズン、ロンジン、ジン、ベル&ロス |
ハイクラス | ロレックス、カルティエ、ウブロ、ブランパン、フランクミュラー、ブルガリ、ジャガールクルト、ジラールぺルゴ、ユリスナルダン |
雲上クラス | パテックフィリップ、ヴァシュロンコンスタンタン、オーデマピゲ、ランゲ&ゾーネ、ブレゲ |
時計好きの私でさえ、現行品で50万円以上の時計は「高くて気軽に普段使いできるものじゃないな」という感覚ですし、気軽に購入できるものでもありません。
一方で、アンティークウォッチになると、10万円台、20万円台からでも上記のミドルクラスに位置するメーカーの時計を購入することが可能です。
オメガやグランドセイコー(キングセイコーも同様)などがその代表格ではないでしょうか。
「この価格でこんな良いものが買えてしまうのか」といつも驚かされます。
また、維持費にも注目したいと思います。機械式時計は、買って終わりではなく、2、3年に1度オーバーホールが必要です(現行品であれば5~10年に1度と謳っているメーカーもありますが)。
誤解を恐れずに言うと、現行品はオーバーホール代が高く(10万円程度)、アンティークウォッチはオーバーホール代が安い(3万円程度)です。つまり、維持費が安いという点でもアンティークウォッチは低価格だということになります。
魅力② 現行品にはないデザイン
アンティークウォッチには、現行品にはない各時代特有のデザインが楽しめます。
また、経年変化を楽しめるのもアンティークウォッチの醍醐味です。それぞれの時計は唯一無二の存在で、同じものはこの世に1つもありません。
そのため、「人と被りたくない」というこだわりを持った方にはとてもおすすめです。
こちらの時計をご覧ください。
こちらはスイスのIWCというメーカーの1955年製の時計(いわゆる「オールドインター」)で、約70年前の時計になります。
現行品にはない時代特有のデザインがつまっていますので、ご紹介したいと思います。
【ボンベイケース】
ケースのラグがツイストしているのが分かるかと思います。ボンベイという品種のネコの顔に似ているということでボンベイケースと呼ばれているみたいです。可愛さを感じつつも高級感が感じられるデザインとなっています。
【砲弾インデックス・飛びアラビア】
12・3・6・9以外のインデックスが砲弾(ミサイル)型になっているのが分かるかと思います。戦時中はすべてのインデックスに数字が施されたフルアラビアが一般的でした。それは戦争という極限状態で瞬時に時間を把握しなければならないということを充足するための実用的なデザインでした。それが戦争が終結するとともに、デザイン性のあるものに変わっていったということが読み取れるデザインになります。(砲弾にデザイン性を感じていたというのですから、やはり時代特有の価値観ですね。)
【パールドロップ】
ミニッツマーカーにパールが埋め込まれているのが分かるかと思います。これはパールドロップ法という手法で、現行品ではプリントが多い中、非常にコストがかかっていることが分かるデザインになっています。
【ドルフィンハンド】
鋭くとがった形状の長短針をドルフィンハンドと呼びます。フランス語で皇太子妃を意味する「ドーフィン(Dauphine)」に由来しているそうです。今でもグランドセイコーが採用していますが、視認性に優れており、質実剛健さを感じるデザインとなっています。
【焼けた文字盤】
文字盤が日に焼けてなのか黄変しているのが分かるかと思います。元々の色がシルバーだったかアイボリーだったかは分かりませんが、経年変化により黄色がかったクリーム色に変色しており、アンティークウォッチらしい雰囲気が楽しめます。また、現行品に使われているIWCというロゴ表記ではなく、「Inter National Watch Co」という筆記体表記になっているのも通好みです。
【プラスチック風防】
この画像からは分かりにくいですが、現行品ではガラスが採用されている風防部分は分厚いプラスチックでできています。これをプラスチック風防と呼びます。プラスチックと聞くとびっくりするかもしれませんが、そこそこの強度はあります。また、擦り傷がついても磨くことができるため問題ありません。ガラスと違い、ぷくっとしており柔らかい印象を与えるとともに指紋も付きづらく実用的な面もあります。
魅力③ 現行品にはない小径のサイズ感
現行品の時計は40mm前後が主流なところ、アンティークウォッチのサイズはそれよりも小さいものが多いです。
30mm前後:当時のボーイズ(男女兼用)サイズ。好みは分かれるかもしれませんが、私は好きなサイズ感です。ロレックスのバブルバックもこのサイズですね。
34mm前後:現在のボーイズサイズ。これが至高だという方も多いはず。
36mm前後:現行品を使っている方でも親しみやすいサイズ感だと思います。
アンティークウォッチであれば、このあたりの小径のサイズのものがゴロゴロと見つかります。
デカ圧ブームも過ぎ、現行品の時計も小径化が進む中で、アンティークウォッチの魅力が再認識されているのではないでしょうか。
こちらの画像をご覧ください。
こちらの時計は33mmサイズですが、腕回り17cmの私が装着するとこんな感じになります。
サイズ感だけ聞くとレディースかと思うかもしれませんが、これが意外としっくりきます。当時の欧米の男性用だったのですから、当たり前といえばそれまでですが。
スマートで上品さが増すように感じますが、それ以上に特筆すべきことは装着感です。
やはり時計はつけてなんぼですから、装着感が良いに越したことはないです。重さで肩がこったりすることもなく、つけているのを忘れてしまうほどです。
その理由には、薄さも影響しています。
手巻き式の時計ということもあり、薄く、スーツを着用した際にも裾にきちんと収まります。
ちなみにこちらの画像では、プラスチック風防がよく分かると思います。ぷくっとしていてとても可愛らしく味わいがありますね。
魅力④ ロービートでハイコストなムーブメント
機械式時計の核は、そのムーブメントにあります。
こちらは先ほどの時計のムーブメントになります。
この時計は、裏スケ用の裏蓋を別注で作ってもらっているため、裏蓋を開けなくても普段からムーブメントを見ることが可能となっています。
当時のレギュラー製品に積まれていながらも精度と美しさに定評のあるムーブメント(Cal.89)だったため、裏スケ仕様にしました。ムーブメントの性能維持という面ではあまり良くないかもしれませんが、普段から美しいムーブメントを眺められるという誘惑に負けました。
ムーブメントの表面には、コート・ド・ジュネーブという波模様の装飾が施されています。また、画像では見ることができませんが、ムーブメントの土台にもペルラージュという真珠模様の装飾が施されています。これらは当時のスイスの時計職人が手作業で行っており、とてもハイコストな作りとなっています。
このオールドインターは極端な例かもしれませんが、アンティークウォッチの多くは、「今のスイスの時計職人に作らせたら一体いくらになるんだろう」というようなハイコストな仕上がりのものが安価に購入でき、かなりお得感があります。(ちなみに「現行品に比べ安価である」ということを強調していますが、一定レベル以上の商品であれば市場価格は安定しており、アンティークウォッチには十分資産性があります。)
このようなムーブメントがケースの中で、「チッチッチッチッ」と時計らしいロービートの音を奏でています。(静かな部屋にいると思っている以上に響きます。)
また、アンティークウォッチには、この時計のように手巻き式の時計が多くあります。「手で巻くなんて面倒じゃないか」と思うかもしれませんが、巻く時間も数十秒ですし、1度フル巻きすれば1日半は動き続けますので、それほど面倒ではありません。むしろ、時計好きの方はもっと巻きたいはずです。
私は、一日の始まりに「今日も一日頑張るぞ」という想いで、この時計のゼンマイを巻いています。
魅力⑤ 一生モノであること
アンティークウォッチの最大の魅力は、一生モノであることだと思っています。
愛着のある持ち物というのはなるべく長く使いたいものですよね。ただ、破れてしまったり、壊れて動かなくなってしまったりと、ずっと使い続けられるものというのは実はそれほど世の中に多くないように感じます。
そんな中で、きちんとメンテナンスさえすれば「長く、何なら一生使える」という特徴のあるアンティークウォッチはとても価値があるものだと思います。
現に、先ほどの1955年製の時計も70年経った今でもしっかりと時を正確に刻んでいますし、これからも刻み続けていくでしょう。
ちなみに、一生モノになり得るかどうかは町の時計屋でオーバーホールができるかどうかにかかっていると思います。
部品が一般に数多く供給されていて、ムーブメントの構造が単純なものであれば、町の時計屋でオーバーホールが可能です。(町の時計屋さんの事業承継という課題はありますが。)
現在流通しているアンティークウォッチの多くはこの条件を満たしています。
一方で、現行品は、メーカーが自社ムーブメントを作るようになり、基本的にメーカーでオーバーホールをすることが前提となっているため、多くの場合、町の時計屋でメンテンナンスができません。メーカーが潰れてしまったり、その時計のメンテナンスを止めてしまったりすると、その時計を一生使っていくことは難しくなります。(そういった意味で、エテルナのETAという優れた汎用機は偉大だったんだなということを改めて痛感しています。)
一生モノとして使えるという特徴のあるアンティークウォッチですから、自分の生まれ年の時計を探すというのも一興ですね。それぞれ別の場所で同じ年を過ごした人と時計が出会い、そこからともに相棒として時を刻んでいくというストーリーはどこか心をくすぐる気がします。
辛いときや嬉しいとき、どんなときもともに歩んできた相棒を形見として自分の子どもや孫に引き継いでいくことも可能です。
アンティークウォッチのデメリット
そんな魅力いっぱいのアンティークウォッチにもデメリットがいくつかあります。
デメリット① 普段使いしづらい
時計はつけてなんぼと言っておきながら、アンティークウォッチはどうしても使用シーンを選びます。
まず、夏場や雨の日はダメです。
アンティークウォッチは水に弱いです。裏蓋がねじ込み式のスクリューバック式ならまだしもパチッとはめるタイプのスナップバック式であればほぼ防水性はないです。小雨でも当然ダメですし、夏場にじわりとかく汗すら危険です。当時ダイバーズウォッチだったものであれば、雨の日程度であれば使用可能だと思います(当然もうダイビングには使えませんけど)。
次に、振動や磁気に注意が必要です。
アンティークウォッチをつけてバイクや自転車には乗れません。振動でムーブメントが壊れる恐れがあります。また、磁気に弱いため、スマホやパソコンなどに過度に近づけると磁気帯びし、精度が悪くなることがあります。
そして、プラスチック風防であることにも気を使います。
擦り傷程度であれば磨けば綺麗になりますが、強くぶつけるなどした場合にはさすがに欠けたりヒビが入ったりする可能性があります。その点、現行品に多く使われているサファイアガラスには強度という面で劣ります。
人生の相棒として時を刻むと言っておきながら、普段腕につけているのは現行品ということも多々あります。実際に私もそうで、アンティークウォッチと現行品の2本使いをしています。しかも、もっぱら使用しているのは現行品の方です。
デメリット② 中古品であるということ
当たり前ですが、アンティークウォッチは中古品です。自分の手元に来るまでに多くの人に使われ、傷や汚れがあります。
そういった点が気になる方であれば、アンティークウォッチは向かないかもしれません。
私も当初は「腕につけるのに中古なんて嫌だな」という考えの人間でした。
しかし、自分自身が年を重ねてきて、体力も落ちて老化していく中で「年をとっていくっていうのは仕方がないことなんだな」と思うようになりました。そして、そう思うことで、「自分だってこんなのなんだから、時計だって仕方ないよね。むしろ自分より頑張ってるじゃん」という風に感じるようになって、中古品であるということがさほど気にならなくなりました。
むしろ、「どんな国でどんなタフガイにつけてもらってこんなかっこいいツラになったんだい」と腕に巻いたアンティークウォッチに語りかけられるようになりました。
デメリット③ ニセモノや粗悪品がある
中古品にニセモノや粗悪品はつきものです。
ニセモノは言語同断ですが、粗悪品についてはお店側も気づかず販売してしまっている場合もあり、注意が必要です。
特に、オリジナル性にこだわる人は、文字盤のリダンや磨きによるケースの痩せについてしっかりとお店に確認しておく必要があります。
用語
リダンとは、文字盤の修復を行うことです。
通常は修復目的で行われることが多いですが、オリジナルとは全く異なる文字盤に変えたりと悪意のあるリダンが行われている場合もあります。私自身は自分で使う分には綺麗な文字盤が良いのでリダンでも気にしない方です。しかし、二次流通価格は下がる(場合によっては買取りしてもらえない)場合があるので、リダンされている時計の購入については慎重に判断すべきです。
アンティークウォッチについては、いかに信頼できる店舗で購入するかが重要となってきます。
私自身利用したことがあり、信頼している店舗を以下に掲載しておきますので、参考にしてみてください。
【ファイアーキッズ】 東京都、神奈川県
YouTubeでのアンティークウォッチに関する情報発信で有名。品揃えも多く、ネットで商品を見ているだけで楽しいです。
【アンティークウォッチライフ】 奈良県
ネット通販が主。先ほどのオールドインターはこちらのお店で購入しました。とても良い状態の商品が届くはずです。
【ダイワ時計店】 神奈川県
懐中時計の品揃えが豊富。先ほどの裏スケ用裏蓋の作成はこちらのお店にお願いしました。加工技術が素晴らしいです。
2024.11.12 ファイアーキッズ 中野ブロードウェイ店にて
アンティークウォッチのススメ
ロレックスなど一部の高級腕時計の価格高騰により、昨今、腕時計がもっぱら投資(投機)商品として扱われるようになったと感じます。
「お気に入りの時計だけど、強盗や盗難の恐れもあるので普段使いできない」というような時代になっているようにも感じます。
しかし、本来、腕時計は身に着け、人生の相棒としてともに時を刻んでいくものだと私は考えています。
そんな腕時計本来の使い方が、「比較的安価に購入でき、過度に目立たず使いやすい」アンティークウォッチであれば可能なのではないかなと常々思っています。
皆さんもアンティークウォッチの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?