「AIに奪われない仕事」は、もう探さなくていい

「AIに奪われない仕事って、何でしょうか」

金融経済教育の講師として親御さんの前でお話しすると、最近よくこの質問をいただきます。お子さんの将来を思えば、当然の不安だと思います。

ただ、私はこの問い自体が、少し古くなってきたと感じています。

かつては「AIに代替されない職業ランキング」のような話がよく流行りました。あの仕事は消える、この仕事は残る、と。いまも「AIと関係のない仕事を選べば安心だ」という声を耳にします。

でも、正直に言えば、それはAIから逃げている発想だと思うのです。いま起きているのは、一部の職業が消えるという話ではありません。ほとんどすべての仕事に、AIが入ってくる。逃げ切れる場所を探すより、この技術とどう付き合うかを考えるほうが、はるかに現実的です。

これからは、職業ではなく別の線で分かれていきます。AIに使われる人と、AIを使う人。同じ仕事をしていても、この二つに分かれる。そして、どちら側に立てるかで、働き方は大きく変わります。

ここまでは、実はよく言われることです。私が本当にお伝えしたいのは、この先です。

では、AIを「使う側」に回るには、どんな力が要るのか。そして、その力は、どうすれば育つのか。

私は、大きく二つの力だと考えています。

一つは、言語化する力です。AIは、言葉で指示を出して動かします。だから、指示を出す人によって、返ってくる結果がまるで違う。何を、どこまで、どういう狙いで――そこまで言葉にできる人の指示に、AIは正確に応えます。これは、語彙力や読解力といった、昔ながらの国語の力です。AIの時代に、むしろ国語が効いてくる。面白いところだと思います。

もう一つは、物事の本質を見抜く力です。いま何が本当の問題で、何を解決すべきなのか。それさえ掴めれば、解き方はAIと一緒に考えていける。答えを出す力より、正しい問いを見つける力が価値を持つ時代です。

そして、ここからが一番大事な話です。

この「本質を見抜く力」は、どうやって育つのか。

一つは、論理的に考える力。筋道を立てて、原因と結果をたどる。これは勉強で鍛えられます。

でも、それだけでは足りません。もう一つ、柔軟な発想が要ります。物事の本質は、たいてい「普通はこう考える」の一歩外にあるからです。決まった型を疑い、遠いところから発想を持ってこられる頭の柔らかさ。これがないと、本当の問題にはたどり着けません。

そして――この柔軟さは、机上での勉強だけでは手に入らないのです。

柔軟な発想は、引き出しの数で決まります。自分の中に、どれだけ多様な世界を持っているか。いろんな職業を知っている、いろんな立場の人と話した、いろんな経験をした。その多様性が、そのまま発想の幅になります。机の上だけでは、決して広がりません。

ここで、最初の話に戻ります。

私が講演で、親御さんに「お子さんに、いろんな職業に触れさせてあげてください」とお伝えするのは、このためです。

子どもが自然に知っている仕事は、学校の先生、お医者さん、お店の人――身近な数種類だけです。世の中にどれほど多様な仕事があるかを知らないまま、進路を選んでいく子が、とても多いです。

多様な職業に触れることは、将来の選択肢を広げるだけではありません。それ自体が、これからの時代に一番必要な「柔軟な発想力」を育てる、何よりの訓練になります。職業体験は、寄り道でも遊びでもない。本質を見抜く力の土台を作る、立派な学びなのです。

AIに奪われない仕事を探すのは、もうやめていいと思います。

そのかわり、AIを使いこなせる子に育てる。そのために親御さんができる一番のことは、正解を教えることではなく、多様な世界に触れる機会を、たくさん作ってあげることなのだと、私は思っています。